S+Security+ 問題演習 SY0-701
D3出題比率 18% ・ 4 レッスン ・ 合計 53 分

セキュリティアーキテクチャ

Security Architecture

このドメインでは、クラウドや仮想化などの「システムの作り方」がセキュリティにどう影響するか、ネットワーク機器をどこに置けば安全か、データをどう守るか、そして障害や災害からどう復旧するかを学びます。個々の技術の名前を覚えるだけでなく、「なぜその選択が安全なのか」を説明できることが目標です。試験では「ある状況に最も適した構成はどれか」という形で問われます。

D33.1読了目安 14 分

アーキテクチャモデルのセキュリティ上の意味

システムを「どこで、どのように動かすか」を決めることをアーキテクチャの選択といいます。自社のサーバ室で動かすのか、クラウドに置くのか、1台の大きなアプリにするのか小さな部品に分けるのか。この選択によって、守るべき範囲と守る責任者が変わります。試験では、各モデルの長所と短所、そして責任の所在が問われます。

クラウドと責任共有モデル

クラウド(Cloud)では、設備を自分で持たず事業者から借ります。ここで重要なのが責任共有モデル(Responsibility matrix)です。物理設備やネットワーク基盤は常に事業者が守りますが、それより上の層をどこまで事業者が担当するかはサービスの種類で変わります。IaaS(Infrastructure as a Service)では OS から上は顧客の責任、PaaS(Platform as a Service)では OS とミドルウェアまで事業者、SaaS(Software as a Service)ではアプリまで事業者が担当し、顧客はデータとアカウントの管理に集中します。

層 IaaS PaaS SaaS アプリ・データ 顧客 顧客 事業者 OS・ミドルウェア 顧客 事業者 事業者 仮想化・ネットワーク 事業者 事業者 事業者 物理設備 事業者 事業者 事業者 右に行くほど事業者の担当が広がり、顧客の管理負担は減る
IaaS・PaaS・SaaS で顧客と事業者の責任範囲がどう変わるかを示す責任共有モデル。

自社設備(On-premises)とクラウドを組み合わせるハイブリッド構成(Hybrid)では、両者をつなぐ経路と設定の不一致が弱点になります。また、第三者ベンダー(Third-party vendors)に依存すると、相手の障害や侵害が自社に波及するリスクを受け入れることになります。

仮想化・コンテナ・サーバーレス

仮想化(Virtualization)は 1 台の物理マシン上でハイパーバイザー(Hypervisor)が複数の仮想マシン(VM)を動かす技術で、VM ごとにゲスト OS を持つため隔離が強い反面、起動が遅く資源を多く使います。コンテナ化(Containerization)はホスト OS のカーネルを共有し、アプリと必要なライブラリだけをまとめて動かすため軽量で高速ですが、カーネルの脆弱性が全コンテナに影響する点が弱点です。

仮想マシン(VM) コンテナ アプリ アプリ ゲストOS ゲストOS ハイパーバイザー ホストOS(または無し) ハードウェア アプリ アプリ アプリ コンテナエンジン ホストOS(カーネル共有) ハードウェア OSごと分離=重いが隔離が強い 軽量・高速=カーネル共有に注意
仮想マシンは OS ごと分離し、コンテナはホスト OS のカーネルを共有してアプリだけを分離します。

サーバーレス(Serverless)は、関数単位のコードを事業者の基盤上で必要なときだけ実行する方式で、OS やサーバの管理から解放されます。マイクロサービス(Microservices)は、大きなアプリを独立した小さなサービスに分割する設計で、一部だけを拡張・更新できますが、サービス間の通信(API)が増えるため攻撃面が広がります。Infrastructure as Code(IaC)は、サーバやネットワークの構成をコードとして記述し自動で構築する手法で、設定を一貫させミス(設定ドリフト)を防げる一方、コードに誤りがあると全環境に同じ穴が複製されます。

ネットワーク基盤と特殊なシステム

  • 物理的分離(Air-gapped): ネットワークを物理的に切り離す。最も強いが、USB 経由の持ち込みやメンテナンスが課題。
  • 論理的分離(Logical segmentation): VLAN やサブネットで分ける。柔軟だが設定ミスで漏れる。
  • ソフトウェア定義ネットワーク(SDN): 制御プレーンとデータプレーンを分け、コントローラから経路やポリシーを集中制御する。
  • 集中型と分散型(Centralized vs. decentralized): 集中型は管理しやすいが単一障害点になり、分散型は耐障害性が高いが一貫した管理が難しい。
  • IoT・組み込み機器(Embedded systems): 計算能力や電力が限られ、パッチが提供されないことが多い。
  • ICS/SCADA: 工場や発電所などの制御システム。可用性が最優先で停止できず、古い機器が多い。
  • RTOS(リアルタイム OS): 決められた時間内に処理を必ず完了させる OS。車のブレーキ制御や産業ロボットで使われる。

アーキテクチャを選ぶときは、可用性(Availability)、レジリエンス、コスト、応答性、拡張性(Scalability)、展開のしやすさ、リスク移転(Risk transference)、復旧のしやすさ、パッチの入手可能性、電力や計算資源といった観点を天秤にかけます。特に「パッチを当てられない(Inability to patch)」機器は、ネットワーク分離や前段のファイアウォールで守る補償的制御が定番の解答です。

イメージたとえばレストランにたとえると、On-premises は自宅で全部自炊、IaaS はキッチン付きの貸しスペースで調理は自分、PaaS は食材と調理器具まで用意された料理教室、SaaS は完成した料理が出てくるレストランです。「食中毒が起きたら誰の責任か」が、どこまで事業者が面倒を見るかで変わる、と考えると責任共有モデルが腑に落ちます。
試験のポイント試験では「IaaS でゲスト OS のパッチは誰の責任か」(答え: 顧客)、「サポート切れで更新できない医療機器をどう守るか」(答え: ネットワーク分離・セグメント化)、「軽量で素早く起動するがカーネルを共有する方式は」(答え: コンテナ)のように、モデルの特徴とリスクを結びつけて問われます。High availability(高可用性)という言葉が出たら冗長化による継続稼働、Air-gapped が出たら「物理的につながっていない」と即座に結びつけましょう。
責任共有モデルResponsibility matrix
クラウド事業者と顧客のどちらがどの層のセキュリティを担当するかを示した表。サービス種別で境界が動く。
Infrastructure as CodeIaC
インフラ構成をコードで記述し自動構築する手法。一貫性が高まるが、コードの誤りが全環境に広がる。
サーバーレスServerless
関数単位のコードを事業者の基盤で実行する方式。サーバや OS の管理が不要になる。
マイクロサービスMicroservices
アプリを独立した小さなサービスの集合として構成する設計。個別に拡張できるが API が増える。
エアギャップAir-gapped
ネットワークから物理的に切り離した構成。外部からの侵入経路を断つ。
ソフトウェア定義ネットワークSDN
制御プレーンとデータプレーンを分離し、ソフトウェアでネットワークを集中制御する技術。
コンテナ化Containerization
ホスト OS のカーネルを共有してアプリを隔離実行する軽量な仮想化。
ICS/SCADAIndustrial Control System / SCADA
工場や社会基盤の制御システム。可用性が最優先で、更新が難しい機器が多い。
リアルタイム OSRTOS
処理を決められた時間内に必ず完了させることを保証する OS。組み込み機器で使われる。
リスク移転Risk transference
クラウド利用や保険などで、リスクの一部を第三者に移すこと。責任がゼロになるわけではない。
この範囲の問題を解く(8問)
D33.2読了目安 14 分

エンタープライズインフラへのセキュリティ原則の適用

同じセキュリティ機器でも、どこに置くか、どうつなぐかで効果はまったく変わります。このレッスンでは、ネットワークをゾーンに分けて機器を配置する考え方と、代表的な機器の役割、そして離れた場所から安全に通信する方法を学びます。

セキュリティゾーンと機器の配置

ネットワークは信頼度の異なるゾーン(Security zones)に分けます。外部のインターネット、公開サーバを置くスクリーンドサブネット(Screened subnet、旧称 DMZ)、社内の内部ネットワークが基本で、境界ごとにファイアウォールを置きます。外部に公開する機能を減らすことは攻撃面(Attack surface)の縮小につながります。

インターネット IPS インライン 外部FW NGFW/WAF スクリーンド サブネット(DMZ) 公開Webサーバ 内部FW 内部ネットワーク 社員PC・DBなど IDS タップで複製 実線=通信の経路、点線=複製した通信(監視のみ・遮断しない)
インターネット、スクリーンドサブネット、内部ネットワークの配置例。IPS はインライン、IDS はタップで接続します。

機器の属性も重要です。インライン(Inline)に置いた機器は通信がそれを通過するため遮断(Active)ができますが、故障すると通信に影響します。タップ/モニター(Tap/monitor)で複製した通信を見る機器は、遅延も影響も与えない代わりに検知(Passive)しかできません。侵入防止システム(IPS: Intrusion Prevention System)は前者、侵入検知システム(IDS: Intrusion Detection System)は後者の典型です。

インライン機器が故障したときの振る舞いを障害モード(Failure modes)といいます。フェイルオープン(Fail-open)は故障時に通信を素通しし、可用性を優先します。フェイルクローズド(Fail-closed)は通信を遮断し、安全性を優先します。工場の生産ラインのように止められない環境ではフェイルオープン、機密システムではフェイルクローズドが選ばれます。

代表的なネットワーク機器

機器役割ポイント
ジャンプサーバ管理アクセスの中継点管理経路を一本化し操作を記録
プロキシサーバ通信を代理で中継URL フィルタ・内部の隠蔽
ロードバランサ複数サーバに振り分け可用性と性能の向上
センサー通信や挙動を収集IDS や SIEM に情報を送る
WAFWeb アプリ層を保護SQL インジェクションや XSS を防ぐ
UTM多機能を 1 台に統合小規模拠点向け・管理が簡単
NGFWアプリ識別+脅威防御レイヤ 7 まで検査する高機能 FW

ファイアウォールの種類はレイヤで区別します。レイヤ 4 ファイアウォールは IP アドレスとポート番号で判断し、高速ですが中身は見ません。レイヤ 7 ファイアウォールはアプリケーションの内容まで検査し、特定のアプリや攻撃パターンを識別できます。有線 LAN ポートに勝手に端末をつながせないためには、ポートセキュリティとして 802.1X を使い、EAP(Extensible Authentication Protocol)で認証に成功した端末だけをネットワークに参加させます。

安全な通信とリモートアクセス

離れた拠点や在宅の端末と安全に通信するには VPN(Virtual Private Network)を使います。インターネット上に暗号化されたトンネル(Tunneling)を作り、中身を読まれないようにする仕組みです。拠点同士を常時つなぐサイト間 VPN には、ネットワーク層ですべての IP パケットを守る IPsec がよく使われ、個人の端末からの接続には TLS を使うリモートアクセス VPN が手軽です。

サイト間VPN(IPsec) 本社LAN 支社LAN インターネット(盗聴の危険) 暗号化トンネル(全パケット) リモートアクセスVPN(TLS/IPsec) 在宅PC VPNクライアント VPN ゲートウェイ 公衆Wi-Fi・インターネット 暗号化トンネル(ユーザー単位) トンネルの外からは中身が読めない=機密性と完全性を確保
サイト間 VPN とリモートアクセス VPN が、インターネット上に暗号化トンネルを作る様子。

SD-WAN(Software-Defined WAN)は複数回線を使って拠点間の経路をソフトウェアで最適化する技術です。SASE(Secure Access Service Edge)は SD-WAN にクラウド提供のセキュア Web ゲートウェイやゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)などを統合したもので、在宅勤務や SaaS 利用が多い企業に向きます。効果的な制御の選択(Selection of effective controls)とは、こうした選択肢の中から、守る対象、脅威、コスト、運用能力に合ったものを選ぶことです。

イメージビルの警備にたとえると、受付(外部ファイアウォール)を通った来客が待つロビーがスクリーンドサブネット、社員しか入れない執務室が内部ネットワークです。入口に立って不審者を止める警備員が IPS、監視カメラで見ているだけで止めはしないのが IDS です。カメラが壊れても人の出入りは止まりませんが、警備員が倒れたら「誰でも通す」のか「扉を閉める」のかを決めておくのがフェイルオープンとフェイルクローズドです。
試験のポイント「遅延を与えず、障害が通信に影響しない」とあれば IDS をタップで、「遮断したい」なら IPS をインラインで、が鉄則です。「コードを直す時間がない Web アプリを守る」は WAF、「小規模で担当者がいない」は UTM、「管理アクセスを一本化し記録する」はジャンプサーバ、「在宅勤務と SaaS 利用の増加」は SASE と、問題文のキーワードから機器を即答できるようにしましょう。レイヤ 4 は「ポート番号」、レイヤ 7 は「アプリの中身」と覚えます。
スクリーンドサブネットScreened subnet (DMZ)
外部と内部の間に置く公開サーバ用のゾーン。侵害されても内部に直接届かない。
フェイルオープン/フェイルクローズドFail-open / Fail-closed
機器故障時に通信を通すか遮断するか。可用性と安全性のどちらを優先するかで決める。
インライン/タップInline / Tap-monitor
通信経路上に置いて遮断できる構成と、複製した通信を見るだけの構成。
ジャンプサーバJump server
管理者が保護された区画にアクセスする際に必ず経由する中継サーバ。操作の記録と経路の一本化に使う。
Web アプリケーションファイアウォールWAF
HTTP の内容を検査し、SQL インジェクションや XSS などアプリ層の攻撃を防ぐ。
統合脅威管理UTM
ファイアウォール、IPS、アンチマルウェア、URL フィルタなどを 1 台に統合した機器。
次世代ファイアウォールNGFW
アプリケーションの識別や脅威防御をレイヤ 7 まで行う高機能ファイアウォール。
802.1XIEEE 802.1X
ネットワークポートに接続する端末を EAP で認証し、成功した端末だけを参加させる仕組み。
IPsecIP Security
ネットワーク層で IP パケットを暗号化・認証するプロトコル群。サイト間 VPN の定番。
SASESecure Access Service Edge
SD-WAN とクラウド提供のセキュリティ機能を統合したサービス。分散した拠点や在宅勤務に向く。
この範囲の問題を解く(9問)
D33.3読了目安 12 分

データ保護の概念と戦略

セキュリティの最終的な目的は、データを守ることです。しかし、すべてのデータを同じ強さで守るのは現実的ではありません。そこで、データを種類と重要度で分類し、置かれている状態ごとに適切な保護手法を選びます。試験では「この状況に最も適した手法はどれか」という形で手法の違いが問われます。

データの種類と分類

  • 規制対象データ(Regulated): 法律で扱いが定められたデータ。個人情報、医療情報、カード情報など。
  • 企業秘密(Trade secret): 製法やレシピなど、秘匿することで競争力の源泉となる情報。
  • 知的財産(Intellectual property): 特許、著作物、ソースコードなど。
  • 法的情報(Legal information): 契約書や訴訟関連の文書。
  • 財務情報(Financial information): 決算、取引記録、口座情報。
  • 人間が読める/読めないデータ(Human- and non-human-readable): 文書や表と、バイナリや機械向けデータ。

分類(Data classifications)は重要度による格付けです。公開(Public)は誰が見てもよい情報、プライベート(Private)は個人に関する情報、機密(Confidential)は社内や関係者に限る情報、センシティブ(Sensitive)は漏れると大きな損害になる情報、制限付き(Restricted)はごく限られた人だけがアクセスできる情報、クリティカル(Critical)は事業継続に不可欠な情報です。分類が決まると、必要な暗号化や権限の強さも決まります。

データの 3 つの状態

データは常に 3 つの状態(Data states)のいずれかにあります。保存中(At rest)はディスクやデータベースに置かれている状態で、ディスク暗号化やアクセス権限で守ります。転送中(In transit)はネットワークを流れている状態で、TLS や IPsec で守ります。使用中(In use)はメモリ上で処理されている状態で、暗号化が最も難しく、メモリ暗号化や厳格なアクセス制御で対処します。

保存中 At rest ディスク・DB・バックアップ 転送中 In transit ネットワーク上を移動 使用中 In use メモリ・CPUで処理中 保護策 ディスク/DB暗号化 アクセス権限の制限 バックアップの暗号化 保護策 TLS(HTTPS) IPsec / VPN 通信経路の分離 保護策(最も難しい) メモリ暗号化・TEE 厳格なアクセス制御 エンドポイント保護 同じデータでも「どの状態か」で守り方が変わる
データの 3 つの状態と、それぞれに対応する主な保護策。使用中の保護が最も難しい。

データがどの国に置かれているかも重要です。データ主権(Data sovereignty)とは、データは保存されている国の法律に従うという考え方で、EU の個人データを域外に置けないといった制約を生みます。これに対応する手法が地理的制限(Geographic restrictions)で、位置情報(Geolocation)をもとに保存場所やアクセス元を制限します。

保護手法の使い分け

元データ 4111 2222 3333 4444 暗号化 Xk9#qT…(鍵があれば復号可) 機密性を守る・可逆 ハッシュ化 a3f9c1…(固定長・戻せない) 完全性の確認・不可逆 マスキング **** **** **** 4444 一部を伏せる・表示や検証用 トークン化 TKN-8f2c(無関係な代替値) 対応表は別の保管庫に・可逆 「戻せるか」「鍵か対応表か」が区別のポイント
同じカード番号に暗号化・ハッシュ化・マスキング・トークン化を適用した結果の違い。
手法元に戻せるか主な用途
暗号化(Encryption)鍵があれば戻せる機密性の確保
ハッシュ化(Hashing)戻せない改ざん検知・パスワード保存
マスキング(Masking)伏せた部分は戻せない画面表示・テスト環境
トークン化(Tokenization)対応表(保管庫)で戻せるカード番号の代替
難読化(Obfuscation)手間をかければ戻せるコードの解析を困難に

このほか、セグメンテーション(Segmentation)で重要データを別ネットワークに隔離する方法や、権限の制限(Permission restrictions)で必要な人だけがアクセスできるようにする方法も、データ保護の基本です。暗号化しても、誰でも復号鍵を使えるなら意味がないため、手法は組み合わせて使います。

イメージネット通販でクレジットカードを登録する場面を考えてみましょう。画面には「**** **** **** 4444」とだけ表示されます(マスキング)。通信は HTTPS で暗号化されています(転送中の保護)。店側のデータベースには実際の番号ではなく「TKN-8f2c」のような代替値だけが保存され、本物は決済代行会社の金庫のような保管庫にあります(トークン化)。店が侵害されても、盗まれるのは意味のない代替値だけです。
試験のポイント「元に戻す必要があるか」で手法を見分けます。戻す必要があり鍵で守るなら暗号化、戻す必要がなく改ざんを検知したいならハッシュ化、数学的に無関係な代替値で保管庫を使うならトークン化、一部を伏せて見せるならマスキングです。「メモリ上で処理中」は使用中(In use)、「保存されている国の法律に従う」はデータ主権、「長年秘匿してきたレシピ」は企業秘密(Trade secret)と、キーワードで即答できるようにしておきましょう。
規制対象データRegulated data
法律や業界規則で保護が義務づけられたデータ。個人情報、医療情報、カード情報など。
企業秘密Trade secret
公開されておらず、競争上の優位性をもたらす情報。製法やレシピなど。
データの状態Data states
保存中(At rest)、転送中(In transit)、使用中(In use)の 3 つ。状態ごとに保護策が異なる。
データ主権Data sovereignty
データは保存されている国や地域の法律に従うという考え方。保存場所の制約を生む。
暗号化Encryption
鍵を使ってデータを読めない形に変換すること。鍵があれば元に戻せる。
ハッシュ化Hashing
データから固定長の値を生成すること。元に戻せず、改ざん検知に使う。
マスキングMasking
データの一部を伏せ字にして表示すること。テスト環境や画面表示に使う。
トークン化Tokenization
元データと数学的関係のない代替値に置き換え、対応表を別の保管庫で管理する手法。
難読化Obfuscation
データやコードを意図的に分かりにくくして解析を困難にする手法。
地理的制限Geographic restrictions
位置情報に基づいて、データの保存場所やアクセス元を制限すること。
この範囲の問題を解く(6問)
D33.4読了目安 13 分

レジリエンスと復旧の重要性

どれだけ防御を固めても、機器は壊れ、災害は起き、人は休みます。レジリエンス(Resilience)とは、問題が起きても事業を止めず、止まってもすばやく元に戻せる力のことです。このレッスンでは、止めないための「冗長化」と、戻すための「復旧」の両方を学びます。

高可用性と冗長化

高可用性(High availability)を実現する代表的な手法が負荷分散(Load balancing)とクラスタリング(Clustering)です。負荷分散はロードバランサが要求を複数のサーバに振り分け、性能向上と障害時の迂回を同時に実現します。クラスタリングは複数のサーバを 1 つのシステムとして動かし、1 台が故障しても別のノードが処理を引き継ぎます(フェイルオーバー)。

単一の事業者や製品に依存しないことも重要です。プラットフォームの多様性(Platform diversity)は異なるベンダーの製品を組み合わせて同じ脆弱性で全滅するのを防ぎ、マルチクラウド(Multi-cloud systems)は複数のクラウド事業者を使って特定事業者の大規模障害の影響を限定します。地理的分散(Geographic dispersion)は、拠点を離れた地域に置いて同じ災害で同時に失われないようにする考え方です。

代替サイトの種類

ホットサイト 機器・データが常に同期 数分〜数時間で切替 コスト:最も高い 例:証券・決済システム ウォームサイト 機器はあるがデータは古い 数時間〜数日で復旧 コスト:中間 例:一般的な業務システム コールドサイト 建物・電源・回線のみ 数日〜数週間で復旧 コスト:最も安い 例:優先度の低いシステム 復旧時間:短い 長い コスト:高い 安い
ホット・ウォーム・コールドサイトを復旧時間とコストで比較。速く戻せるほど費用がかかる。
サイト準備状態復旧時間コスト
ホットサイト機器とデータが常に同期数分〜数時間高い
ウォームサイト機器はあるがデータは最新ではない数時間〜数日中間
コールドサイト建物・電源・回線のみ数日〜数週間安い

どのサイトを選ぶかは、許容できる停止時間とコストのバランスで決まります。事業継続(Continuity of operations)の計画では、キャパシティプランニング(Capacity planning)として人員(People)、技術(Technology)、設備(Infrastructure)のそれぞれに余裕があるかを確認します。特定の 1 人しか復旧手順を知らない状態は、人員の単一障害点です。

バックアップ

バックアップ(Backups)は復旧の土台です。方式には、すべてを毎回取るフル、前回のフル以降の変更をすべて取る差分、前回のバックアップ以降の変更だけを取る増分があります。差分は復元がフルと最新の差分の 2 セットで済み、増分は容量が最小ですが復元にすべての増分が必要です。

日 月 火 水 復元に必要なもの フルのみ 全部 全部 全部 全部 最新のフル1つ 容量大・復元は最速 差分 フル フル以降の変更をすべて(日々増える) フル+最新の差分 2セットで復元 増分 フル 前回のバックアップ以降の変更だけ フル+増分すべて 容量最小・復元は最も遅い 箱の高さ=その日に取得するデータ量
フル・差分・増分バックアップで毎日取得する量と、復元に必要なセットの違い。
  • オンサイト/オフサイト(Onsite/offsite): 同じ建物に置くと災害で一緒に失われるため、遠隔地にも保管する。
  • 頻度(Frequency): 取得間隔が長いほど失われるデータが増える。
  • 暗号化(Encryption): バックアップ媒体が盗まれても読めないようにする。
  • スナップショット(Snapshots): ある時点の状態を丸ごと記録。仮想マシンやストレージで素早く戻せる。
  • レプリケーション(Replication): 別のシステムにリアルタイムで複製し続ける。
  • ジャーナリング(Journaling): 変更の記録を逐次保存し、バックアップ後の変更も復元できるようにする。
  • 復旧(Recovery): バックアップは「戻せること」を定期的に試して初めて意味を持つ。

電源と復旧計画のテスト

電源(Power)の冗長化では、無停電電源装置(UPS)が停電直後の数分間をバッテリーで支え、電圧変動からも機器を守ります。長時間の停電には発電機(Generators)が対応しますが、起動して安定するまで時間がかかるため、UPS と組み合わせて使います。

復旧計画は作っただけでは機能しません。テスト(Testing)には段階があり、机上演習(Tabletop exercises)は関係者が集まってシナリオに沿って手順と役割を議論するもので、本番に影響を与えません。シミュレーション(Simulation)はより実践的に訓練し、フェイルオーバー(Fail over)テストは実際に予備系へ切り替えます。並行処理(Parallel processing)は本番を止めずに復旧システムを並行稼働させて検証します。

イメージ家庭にたとえると、UPS はスマートフォンのモバイルバッテリー、発電機は長期停電用のポータブル電源です。バックアップは「大事な写真を外付けディスクとクラウドの両方に置く」こと(オンサイトとオフサイト)、ホットサイトは「引っ越し先にまったく同じ家具と家電を揃えて、いつでも住める状態にしておく」ことに相当します。便利ですが家賃が 2 倍かかる、というのがコストとのトレードオフです。
試験のポイント「数分以内に再開、コストは問わない」はホットサイト、「建物だけ」はコールドサイトです。「本番に影響させず、集まって議論する」は机上演習、「バックアップ後の取引も失いたくない」はジャーナリング、「発電機が立ち上がるまでの 1 分を支える」は UPS、「単一事業者の障害で全停止」はマルチクラウド、「1 人しか手順を知らない」は人員のキャパシティプランニングが解答の定番です。負荷分散は「振り分け」、クラスタリングは「引き継ぎ」と区別しましょう。
高可用性High availability
冗長化によってシステムをほぼ止めずに稼働させ続ける設計。
負荷分散Load balancing
要求を複数のサーバに振り分けて性能と可用性を高める手法。
クラスタリングClustering
複数のサーバを 1 つのシステムとして動かし、故障時に別のノードが処理を引き継ぐ手法。
ホット/ウォーム/コールドサイトHot / Warm / Cold site
災害時の代替拠点。準備状態が高いほど復旧が速く、コストも高い。
マルチクラウドMulti-cloud
複数のクラウド事業者を併用し、特定事業者の障害による全停止を防ぐ構成。
キャパシティプランニングCapacity planning
人員・技術・設備に十分な余裕があるかを計画すること。属人化は人員の単一障害点。
机上演習Tabletop exercise
関係者が集まりシナリオに沿って復旧手順を議論するテスト。本番に影響しない。
ジャーナリングJournaling
変更を逐次記録し、最後のバックアップ以降の変更も復元できるようにする仕組み。
スナップショットSnapshot
ある時点のシステムやストレージの状態を丸ごと記録したもの。
無停電電源装置UPS
停電直後の短時間をバッテリーで支え、電圧変動からも機器を守る装置。
発電機Generator
長時間の停電に対応する電源。起動に時間がかかるため UPS と併用する。
この範囲の問題を解く(7問)